コンテンツへスキップ

忘れられないお客様③-寒くなると黒糖を食べたくなる理由ー

長崎もすっかり寒くなりました。
家族と自分の服装に毎日悩みます。

「あー、少し寒くなってきたなー」と思うとやすもとは黒糖を食べたくなります。
黒砂糖食べたいなぁーと頭で先に考えてしまうのですが、それにはあるお客様方との
エピソードがあるからです。

まだ、CAになって一年目。今よりもう少し季節が進んだ11月下旬ごろだったかと思います。
羽田発、札幌行きの午後の便。
到着地札幌の天候が急激に悪化する見込みで「出発しても途中で引き返す可能性あり」という
条件付きの運行でした。

コックピットも含め乗務員一同も事前に打ち合わせ、羽田に戻ると決まった場合の動きを
詳細に話合いました。
やすもとは当時、後方座席担当。
後方には沖縄から初めて雪を見るという団体ツアーのお客様がいらっしゃいました。
離陸して札幌に近づくにつれ「これはやはり到着できない」という情報がコックピットからあり、
羽田に引き返すことになりました。

ドリンクサービスの際に交わしたお話の中で、
どのような思いで沖縄からお客様がこの旅行にいらしていたか、前々から楽しみにしていらしたかを知り、
それを思うと大変心苦しい気持ちで着陸態勢の準備に入りました。

羽田に到着して「きちんとお客様を目的地までお連れできず申し訳ありませんでした」というやすもとに、
沖縄からのお客様方は
「やすもとさんはなんも悪くないさ~。これも冒険さ。」「ね~」とにこやかに笑ってくださいました。
「沖縄にもゆっくり来てよ。はいこれ」と一人のお客様が袋から黒糖をひとつ。
掌にのせてくださいました。
そこから周りのお客様が黒糖のお菓子をわたしも、わたしもと。掌にたくさん(笑)
突然の贈り物に胸がいっぱいになりました。

掌いっぱいの黒糖を大事にティッシュでくるみ、お礼を述べ、この先のご旅行のご無事を願い
お見送りいたしました。
イレギュラーで食事をきちんと取れなかったので、勤務が終了して一口食べたあの黒糖のやさしい甘さを
今でも覚えています。

やすもとが黒糖を食べるとなんだか温まるのはこの時からです。

まだ駆け出しで毎日怒られながら勤務し日々きつかったけれど、
こんな出会いもあるってすごく嬉しい、明日も頑張ろう、と思ったフライトでした。

働くことはいろいろな我慢やストレスや悲しみ苦しみも伴うかもしれません。
ですが、それだけじゃないことはみなさんもご存知のことと思います。
やりがいや達成感、人からの温かみもきっとあるはず。

だから、「がんばれ」というつもりではありません。
「がんばる」「がんばれ」はあまり好きなことばではありません。

だけど、世知辛い世の中だけど、人って捨てたもんじゃない。

個も組織も本当の意味で良くなるように、大事だと思ってきたことを
自分のことばでこれからもお伝えしていきたい。

そのようなことを思いながら、やすもとは今年もまた黒糖を食べながら冬を過ごします。