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空の安全を祈る日

大学二年生の頃でした。
26年前の今日、夏休みに入った私は授業もなく家に居ました。

お昼前、テレビをつけたとき札幌行きのANAの飛行機がハイジャックにあったというニュースが全放送局で流れていました。
大変驚いて、しばらくテレビをつけたまま食い入るように祈るように見ていました。
その後、機長が犯人に刺されて死去というショッキングな報道に大変心を痛めました。

その時の映像で特に鮮明に覚えているのは、ANAの職員が機長宅に説明に向かった際、ご家族が大変戸惑っておられた様子です。

その頃の私は自分が将来どのような職に就きたいのかまだ悩み中で、航空会社をANAを、さほど身近には感じていませんでした。
ですが、ハイジャックというものが現実に起きて機長がお亡くなりになるというニュースは大変ショックでした。

3年後、自分が今度は保安要員としてANAの客室乗務員として乗務した時、夏はこのハイジャック事件を思い出し身が引き締まる思いでした。
先の61便のハイジャック事件では、大切な仲間を失った悲しみを忘れないとANAでは7月は安全強化月間でありました。
お客様を到着地まで安全にお連れする。
それが私たちの使命だと、一人一人がそう思っていました。

我々、客室乗務員の行動について書かれたマニュアルの一文にはこう書かれています。

「緊急脱出時は付近の乗客の安全を確認した後に脱出する」

型式では一人50名の旅客を担当することになっています。
50名のお客様の安全を確認しない限り脱出しない。
そう思ってフライトに臨んでいました。

飛行機は安全な乗り物です。
交通事故よりも事故にあう確率は低いのです。
ですが、もしそれが人為的でも事故になってしまった場合、その犠牲は大きなものになってしまう。
それを防ぐことが我々客室乗務員の最も大切な仕事でした。

61便ハイジャック事件に遭った飛行機はその後、2014年に退役しています。
実はわたくしもその飛行機に何度も乗務したことがあります。
新人の頃、初めてその飛行機に乗務した際、先輩から教わったことがあります。

「この飛行機はね、ノーマルフライト(天候にも左右されず予定通り)が多いの」
「いつも安全なのよ。亡くなった機長が見守ってくれているって」

大変優秀でお優しい機長だったと伺っていました。

かつて空の安全を守っていた私は
今、空の安全を祈っています。

今日この日にまた空を見上げて祈ります。

夏休み、多くのお客様がお子さん方が飛行機を通じてかけがえのない時間を過ごされますように。
素敵な夏を。

長崎からそう願っています。